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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)628号 判決

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

原判決主文第2項中、被控訴人ら関係部分は仮に執行することができる。

被控訴人らのその余の附帯控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

(控訴につき)

1 原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(附帯控訴につき)

1 本件附帯控訴をいずれも棄却する。

2 附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

(控訴につき)

1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(附帯控訴につき)

1 原判決主文2、3項中被控訴人ら関係部分を次のとおり変更する。

2 控訴人は被控訴人らに対し、それぞれ、昭和五八年二月二二日以降毎月二五日限り、月額原判決添付賃金目録当該被控訴人欄中の平均賃金欄記載の額の割合による金員を支払え。

3 右第2項につき仮執行の宣言。

第二  当事者の主張

次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決五枚目裏一二行目の「放遂」を「放逐」と、同六枚目表二行目の「組織」を「組織力」と、同七枚目表一二行目の「3(三)」を「3(二)、(三)」とそれぞれ訂正する。)。

一  控訴人の当審での主張

1(一)  クローズド・ショップやユニオン・ショップ等のショップ制は、本来、(1)未組織労働者の組織化ないし労働組合の組織拡大という目的(団結への強制)と、(2)組合内部の統制を保ち、分裂や裏切りを防ぐという目的(団結における強制)とをもって登場した。

ところが、我が国のような企業別組合組織のもとでは、組織の範囲が企業内に限定されているため、横断的な労働市場において労働力を掌握する力は持ちえない。その結果、予め組合員資格を持っていなければ雇傭しないとするクローズド・ショップ制は実現不可能であり、この点において、企業別組合のショップ制は重大な制約を受けている。

(二)  しかし、このような企業別組合にとっての労働市場でも、その入口と出口、すなわち雇入れと解雇の時点においてコントロールすることは可能であり、雇入れ後組合員資格の取得を要求し、これを失えば解雇されるとするユニオン・ショップ制は、そのコントロールの表現形態ということができる。かかる意味で、未組織労働者の組織化や組織の維持拡大というショップ制の前記(一)(1)の目的は、一定の制約はあるものの、企業別組合のユニオン・ショップによっても果たしうるのである。

(三)  とは言っても、企業別組合のユニオン・ショップは、横断的労働市場において労働力の所有者を統轄し、その仕事口を確保するという機能を営むものではなく、使用者によって既に仕事口を与えられ従業員となった者に対して、職場において統制を加えるという作用を果たすだけである。

だからこそ、企業別組合にあっては、組合内における分裂、分派行動に対しては、厳しく対処しなければならず、それによって初めて、組合の団結力が維持できるのである。

(四)  こうして、企業別組合のユニオン・ショップ制は、組合内部の統制を保持し、裏切りや分裂を防ぐというショップ制の前記(一)(2)師の目的を十分に果たしうるのであり、むしろ、企業別組合にとっては、右の目的、機能が、前記(一)(1)の目的、機能より重要な意味を持つものである。

そして、企業別組合のユニオン・ショップは、除名即解雇という強制力によって組合の内部統制を維持するところに焦点があるのである。

(五)  しかして、このように組合分裂の防止を本来の目的とする我が国のユニオン・ショップ制が、その目的に沿う社会的機能を営んでいることは否定できないところであり、特に、被除名者、脱退者は解雇されるという側面が、個々の組合員に心理的な影響を及ぼし、除名されないよう或いは脱退する破目にならないように自らの行動を慎ましめ、ひいては集団脱退や分裂の防止に役立っているのである。

2(一)  ところで、労働組合は、国家及び資本に対抗して労働条件の維持改善をはかる団体であるから、その目的を達成するためには、組織を強化して内部統制を維持することが要請される。労働組合の統制権及びその一態様である組合員に対しての制裁権はこのような要請に根拠をおくものである。そして、制裁処分特に除名処分は、組合自体が独自に持つ組織上の強制力に根ざすものであり、組合員に組織的統制への服従を強制する作用を営むという意味で、対内的な組織強制の一つの手段にほかならない。

(二)  一方、ユニオン・ショップは、前記のとおり、除名と解雇との連結という制度をとおして組織強制を行おうとするところに、その機能の最も重要な側面が存する。

(三)  したがって、こうした、ユニオン・ショップの機能を重視すれば、特に除名者に対する解雇は有効になしうるものと言わざるを得ないのであり、仮に、一企業に複数組合が併存しているような場合、一方組合とのユ・シ協定に基づいて他方組合員を会社が解雇することはできないとする考え方をとるとしても、第二組合を結成したとする者が第一組合を除名された者である場合には、そのような者の団結権を考慮する余地はないのであるから、かかる被除名者に対してはユ・シ協定の効力が及ぶと考えるべきである。

3  これを本件についてみると、

(一) 被控訴人らは、特段の具体的理由もなしに、分派分裂活動を行うなど参加人組合の組織の統一を乱し、更には参加人組合に対する誹謗中傷を行って、その名誉を毀損するなど、除名に値するような反価値的態度があったために、参加人組合から現実に除名された。

(二) すなわち、

(1) 参加人組合は、脱退したとする被控訴人らに対し、組合に復帰するよう説得を続けたが、被控訴人らは、これに耳を貸そうとしなかった。

(2) そのため、参加人組合は被控訴人らの脱退を認めず、昭和五九年一月一〇日、被控訴人らに対し、統制処分に付すべく、弁明の機会を与える旨通知したが、被控訴人らはそれにすら出頭しなかった。

(3) そこで、参加人組合は同月二四日付をもって、被控訴人らに対し、次のとおりの理由をもって、組合規約第四二条、第四三条に基づき除名処分を決定し、通知した。

「被控訴人らは、当支部(参加人組合)の分会員でありながら、しばしば反組合的言動をとってきたばかりか、〈1〉昭和五七年一二月初め頃から秘かに組合分裂策動に乗り出して、他の組合員に脱退工作を行い、〈2〉昭和五八年二月二一日組合を脱退して、全日本運輸一般労働組合神戸支部三井倉庫港運分会を結成したが、その際、当支部の方針とする「海コンセンター構想」を特定企業の育成を目的とするかの如く曲解して非難したり、当支部の一部幹部が官僚主義的組合運営を行い組合民主主義が貫かれていないとか、ユ・シ協定により、組合員を締めつけ組合員の権利を踏みにじっている等の中傷誹謗を内容とする声明文を内外に発表した。」

(三) してみると、被控訴人らは、反組合的行動のゆえに参加人組合から有効に除名されたのであるから、その団結権は何ら保障するに値せず、同人らには、本件ユ・シ協定の効力が及ぶというべきである。

4  よって、本件解雇は有効である。

二  被控訴人らの当審での主張

1  控訴人の右主張1、2は争う。

2(一)  同主張3中、その主張のような除名の通告のあったことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(二)  控訴人は、被控訴人らに「除名に値する」非違行為があったと主張するが、その具体的な行為内容は何ら主張されていないし、「分派分裂活動」と主張するのは、被控訴人らの団結権の行使を誹謗中傷しているにすぎない。

また、右除名の通告は、控訴人の主張につじつまを合わせてなされたものにすぎず、除名処分としての効力は全く有しないものである。すなわち、参加人組合は、昭和五八年二月二一日には、被控訴人らの組合脱退を承認し、控訴人に対して被控訴人らの解雇を求めていたのに、同年八月二五日の原審第一回口頭弁論期日において、控訴人から「除名に値するような参加人組合に対する反価値的態度があった」との主張がなされたところ、参加人組合も、同年一一月、同様の主張を提出したうえ、前記脱退から一年近くもたって、右の除名処分をなしたのである。それは、控訴人代理人が主張した「除名処分」があったことにするためわざわざなされたものである。

3  本件は事実関係に争いなく、その前提事実からは控訴人の主張が失当であることは判例学説上争いのないところである。しかるに、控訴人は訴訟の遅延のみを目的として控訴し、敗訴すれば更に上告する考えであるという。しかも、原判決に仮執行の宣言が付されていないのをよいことに賃金の支払いをも拒絶した。このような控訴人の態度からすると、原判決どおりの主文であると判決確定以後の賃金支払いに付いて再び拒絶されるおそれがある。

したがって、本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払い請求の必要性も現実に存在している。

4  また、判決が確定するまでの間の救済のため、金員支払部分に仮執行の宣言を付することを求める。

第三  証拠関係(省略)

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本訴各請求は、原審の認容した限度では正当として認容し、その余の部分は不適法として却下すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、補正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1(一)  原判決九枚目裏一一行目の「1(二)(1)」を「1(二)」と改め、同一〇枚目裏七行目の「覆減」を「覆滅」と、同一一行目の「前記1の」を「前記(一)、(二)の」とそれぞれ訂正する。

(二)  原判決一〇枚目裏末行の次に、改行のうえ、左の説示を加える。

「そして、控訴人が、被控訴人らには除名に価するような反価値的態度、反組合的行動があったとして主張するところも、参加人組合が、昭和五九年一月二四日付の処分通告書で除名処分の理由として挙げるところ(成立に争いのない乙第一四号証により控訴人の当審主張3(二)(3)摘示のとおりと認められる。)も、いずれも、その中心は、右に説示したような、新組合結成、加入を目的とした一連の行動を指しているものと解されるが、控訴人の主張を検討しても、また、前掲乙第一四号証、成立に争いのない甲第九ないし第一二号証、乙第一ないし第一三号証及び弁論の全趣旨に表われている参加人組合の本訴内、外での主張を検討しても、被控訴人らの右一連の行動に、上来説示の組合選択の自由・他組合に加入しての団結権の行使として容認される範囲から逸脱し、その団結権を否認されてもやむをえないような普遍的な反価値性ありと評価される事由が存在したとなすに足る指摘は見出しえず、他にこれを認めるに足る証拠もない。

また、右に述べた一連の行動に係る点以外においても、被控訴人らに前説示のような普遍的な反価値性のある行動が存在したものとなすに足る具体的主張も、立証もない。」

(三)  原判決一二枚目表三行目及び同裏一行目の各「昭和五七年」を「昭和五八年」と、同五行目の「昭和五八年一月一四日」を「昭和五九年九月二一日」と、同六行目及び同九行目の各「給与」を「賃金」と、同一三枚目表三行目から四行目にかけての「昭和五六年」を「昭和五八年」とそれぞれ改める。

2  控訴人の当審での主張について

(一)  控訴人は、被控訴人らは参加人組合から昭和五九年一月二四日付をもって有効に除名されたと主張し、前掲甲第一〇、一一号証、乙第一四号証によれば、参加人組合の執行委員会は、右同日頃、被控訴人らを除名する旨決定し、右同日、前記のとおりその除名処分を通告したことが認められる(除名通告の点は当事者間に争いがない。)けれども、被控訴人らは、その約一一か月前の昭和五八年二月二一日に参加人組合に脱退届を提出していることは前認定のとおりであって、この脱退の意思表示の効力発生を防ぐべき事由は何ら主張、立証されていない(因に、労働組合は労働者の自由意思による結合を基礎とするものであるから、労働者がその加入組合から脱退することは原則として自由であると解される。したがって、その脱退の意思表示が権利の濫用に該当するなど特段の事由が主張、立証されない限り、労働者の一方的な脱退の意思表示によって、当然に脱退の効力が生じるものというべきである。また、控訴人が被控訴人らの反価値的、反組合的行動として主張するところをもっては、右に述べた特段の事由となしえないことは、前説示のところから明らかである。)。

したがって、被控訴人らの脱退は、右除名処分前の昭和五八年二月二一日に既に効力が生じており、その後になされた右除名処分は、除名の効力を生ずるに由なきものというべきである。(なお、前掲甲第五号証、乙第二号証によれば、参加人組合自身も、昭和五八年二月二一日に、右脱退を承認しており、その脱退の効力の生じていることを前提として、控訴人に対して、本件ユ・シ協定に基づく解雇を要求していることが明らかである。)

(二)  よって、右除名処分の有効なことを前提とする控訴人の当審での主張は採用できない。

(三)  なお、右の除名の点を除く控訴人の当審での主張が、原審における主張1を補足する趣旨をも含むと解し、その当審で主張するところを併わせ検討しても、前記補正引用にかかる原判決理由説示二項1記載の判断には何らの消長もきたさない。

3  被控訴人らの当審での主張について

(一)  控訴人の本件控訴が訴訟の遅延のみを目的としているものと認むべき資料はなく、その余の被控訴人ら主張の点をもっては、いまだ、本判決確定の日の翌日以降の分の賃金について予めその請求をする必要があるものとはなしがたく、他にこの必要性を肯認するに足る事情も見当らないから、被控訴人らの本訴請求中、右の分の賃金の支払を求める部分が不適法であるとの前記判断は左右されない。

(二)  次に、原判決が被控訴人らの支払請求を認容した部分については、その金員の趣旨、本訴の経過等に鑑みると、これに仮執行の宣言を付するのが相当であると解される。

二  以上の次第であるから、被控訴人らの本訴請求中、被控訴人らの雇傭契約上の従業員の地位の確認を求める部分及び控訴人に対して昭和五八年二月二二日以降判決確定の日まで毎月二五日限り月額原判決添付賃金目録のうち当該被控訴人欄中平均賃金欄記載の額の割合による各金員の支払を求める部分を認容し、その余の賃金支払を求める部分の訴えを却下した原判決は相当であって、本件控訴及び本件附帯控訴中右却下に係る部分の原判決を変更して当該賃金の支払を求める趣旨の部分は理由がないから、いずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用し、前説示のとおり原判決主文第2項には仮執行の宣言を付することとして、主文のとおり判決する。

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